【読書感想】千早茜『眠れない夜のために』:夜の世界を味わう短編集

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【読書感想】千早茜『眠れない夜のために』:夜の世界を味わう短編集

この記事は、一部ネタバレを含みます。

目次

『眠れない夜のために』の基本情報

タイトル眠れない夜のために
著者千早 茜
西 淑
出版社平凡社
発行日2024/11
ジャンル小説
ページ120ページ

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『眠れない夜のために』のあらすじ

直木賞作家・千早茜が紡ぐ、10の夜の物語。
人気イラストレーター・西淑による美しい挿絵とともに味わう、「眠れない夜」をテーマにした短編集。

「眠らなくてはと、まぶたを閉じる。けれど、目の奥にすこんとした空洞がある」。家族が寝静まった深夜、ひとり台所に佇む時間──第一夜「空洞」

「夜にあるのは、見えない恐ろしさではなく、見ようとしてしまう恐ろしさ」。美しい刺繡を生業とする「わたし」の暮らす土地に、ある日旅人が訪れて──第八夜「繡(うつく)しい夜」

「夜の底の黄金よ、君の寝顔は本当に変わらないから、こんな静かな晩は永遠に続く夜に閉じ込められてしまったような心持ちになるのだ」。眠り続ける「君」の呼吸に、傍らで耳をすます──第九夜「寝息」

……ほか、夜の世界へと誘う10篇を所収。

引用:平凡社『眠れない夜のために』

『眠れない夜のために』ジャンル、カテゴリー

  • ファンタジー
  • 恋愛・ラブロマンス
  • ヒューマンドラマ
  • 短編集

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『眠れない夜のために』の感想(ネタバレなし)

夜の魅力を詰め込んだ、眠れない夜のお供にしたい短編集

この短編集は、静かで孤独な深夜から、朝日が昇るまでの時間を描いた10の物語が収められた一冊だった。

眠らない都会の片隅、しっとりと雨に包まれた小さな世界、昼間には現れない者たちが息づく夜――

作品ごとに異なる”夜”の表情が描かれ、ページをめくるたびにその奥深さを感じる。夜が持つアンダーグラウンドな雰囲気と、静寂の中に潜む魅力が巧みに表現されている。

1作が5分程度で読めるため、眠る前や、ふと目が冴えてしまった夜にちょうどいいボリューム。孤独を抱えた夜の物語が、徐々に誰かと過ごす温かな夜へと変わっていき、最後には朝日が差し込むような構成になっているのが印象的。

寂しさだけでなく、希望や温もりを感じられる夜の物語。夜が明けることをそっと教えてくれる、そんな短編集だった。

『眠れない夜のために』の感想(ネタバレあり)

第一話 空洞

眠れない夜は、クッキー缶を開ける 

p.6

眠れない女性が、家族の寝ている寝室から抜け出して、クッキー缶を食べるお話。

無機質な都会の夜の中、一人きりでクッキー缶を抱え、眠れぬ時間を過ごす――そんな光景が目に浮かぶ。夜の孤独を静かに映し出す。

私もクッキー缶好きだ。ただのクッキーではない。クッキー缶であることがとっても重要!!宝石箱のようなあのビジュアル。値段もピンキリだが、私にとっては最高峰の日々の糧といってよい。

パズルのようにきっちり収まるクッキーたち。この完璧なバランスを崩したくなくて、一つ目に手をつけるのをいつも躊躇してしまう。

そうはいっても、美味しい内に食べたいし、バターと砂糖の誘惑に負けていつも食べ始めてしまう訳だが…。

一つ手に取ったら、もう止まらない。端から一つずつ順番に食べていって、お気に入りを最後に残す。一度手をつけたら、あっという間に缶だけになってしまう。

作中の女性が、自身の孤独や不安を埋めるようにクッキー缶を空にしていく姿には共感する部分があった。甘いものは寂しさや不安を埋めてくれる。自分だけの至福な時間だ。

作中のクッキーの描写が、バターの匂いや食感が漂ってくるようで甘いもの欲をそそる。

千早茜さんが描く、もう一つのスイーツ小説『西洋菓子店プティ・フール』を思い出す。甘いスイーツをテーマにしながら、日常の苦味を隠し味として楽しめる一冊だ。こちらも合わせてお勧めしたい。

眠れない夜ほど、孤独感は強く押し寄せるもの。私もこれまでに、いくつのクッキー缶を開けてきたのだろうと考えさせられる。

子供の頃、家族や友達と分け合いながら食べたクッキー缶が懐かしくなった。今では一人で独占することもできるけれど、やっぱり量が多くて、シェアして美味しさを分かち合いたくなる。

第ニ話 森をさまよう

眠れない夜は、ばけものになる。 

p.16

本章では、眠れない女性がSNSを眺めながら夜を過ごす姿が描かれている。

眠れない夜は、とにかく孤独が身に染みるもの。誰かと繋がっていたくなり、ついSNSを開いてしまう。その先に広がるのは、幸せそうでキラキラした世界。誰もが充実した日々を送っているように見えて、自分だけが不幸で孤独なのではないかと感じてしまう――その感覚が痛いほど共感できた。

特に、「どの人にもあたしの痕跡はもうない」という描写が、沁みる。有り得たかもしれない未来を思う。

普段は気にならない小さなことが気になって、検索する手が止まらない。その虚しさがリアルで、夜の静けさの中でひとり取り残されたような感覚が蘇る。

そんな中、主人公は「食欲のばけもの」となり、インスタント麺をすすることで深い森から脱する。1話のクッキー缶のエピソードと同じく、食が孤独を埋める手段として重要な役割を果たしている。

夜中に食べるラーメンやクッキーは、罪深い。でも、その分だけ美味しく感じる。ひとりで抱え込んでいた感情を、熱いスープや甘いクッキーが少しだけ和らげてくれる――そんな夜のひとときが、誰にでもあるのかもしれない。

第三話 水のいきもの

眠れない夜は、ないと思っていた。

p.24

悪夢をきっかけに眠れなくなってしまった女性の物語。

眠りに落ちる瞬間が水辺を揺蕩うように描かれているのが好きだった。

現実が遠のき、抗いがたい眠気にさらわれていく感覚。何も考えず、ただ眠るというのは、実はとても贅沢なことなのだと改めて思った。

溺れる悪夢を見た女性は、眠ることが怖くなってしまい、深夜の街へと歩き出す。そんな夜にすれ違うのは、同じく眠れない大学生。彼もまた、何かしらの悩みや不安を抱えているのかもしれないと想像すると、一瞬の出会いにも特別な意味が感じられる。

数年後、彼は日本を代表する水泳選手になる。彼の中にあった眠れない夜の記憶、そして水とともに揺蕩う感覚が、彼の人生とどこかで繋がっていたのかもしれない。

眠りと深い水の世界を絡めた描写が、美しく、静かな余韻が残る。

第四話 あめ

眠れない夜は、雨が降っている。

p.40

雨を通して心の声が聞こえる青年の物語。

雨が降ると、人との距離が縮まる。同じ傘の下で肩を寄せ合うとき、雨宿りしながら静かに時間を共有するとき、そこには普段とは違う、小さな世界が生まれる。雨音が外の喧騒をかき消し、まるで薄い膜に包まれたような感覚になる。その中では、心の声がいつもよりもはっきりと響いてくる。

主人公の青年は、そんな雨の中で他人の心を知ることができる。雨が降るたび、誰かの孤独や不安、あるいは隠された想いが流れ込んでくる。雨が降る夜は、自分の声すらも大きくなりすぎて、眠れなくなることもある。その描写がとても繊細で、まるで雨粒一つひとつに感情が宿っているようだった。

雨が作り出す、静かで閉ざされた世界。そこに生まれる特別な時間と、青年の持つ不思議な力が織りなす物語には、どこか幻想的で温かみのある魅力がある。

読んでいるうちに、次に雨が降る日が少し楽しみになりそうな、そんな一篇だった。

第五話 しじまの園

眠れない夜は、ここに来るといいですよ。

p.52

遊園地で働く老齢の男性の幽霊が主人公。閉園したことにも気づかず、毎夜施設内の整備を行なっている。

賑わっていたはずの遊園地が今では静まり返り、かつての賑わいが遠く感じられる。夜の闇に包まれたその風景には、どこか哀愁が漂う。

時間の流れと共に変わりゆく場所の姿や、人々が去った後の空間の静けさを描写する。幽霊となって働き続ける男性の姿に、過去の記憶や未練が込められているようで、切なくも美しい世界観に引き込まれた。

営繕さん×幽霊の作品といえば、小野不由美さんの『営繕かるかや怪異譚』を思い出した。古い物件で起こる怪事件をテーマにしたオムニバス小説だ。

営繕さんが古い物件を修繕し、中古の良さも悪さも受け入れて共存していくという作品。本章の雰囲気が気に入った方は、こちらの作品もオススメ。

第六話 木守柿

眠れない夜は、お腹のなかからやってきます

p.62

柿色の毛糸を編みながら、新しい家族の誕生を待つ夫婦の一夜から物語は始まる。女性は、子供の頃に祖父母の家にあった柿の木について想いを馳せる。

両親の離婚で、祖父母の家で育った彼女を守るように、柿の木はそこにあった。しかし、今ではその柿の木は切り倒され、姿を消してしまった。

それでも彼女の中には、祖父母の温かさがしっかりと継承されており、その思いは次世代へと繋がっていく。柿の木が少女を守り続けたように、新たに生まれてくる命にも温かな守りがあることを感じさせる。

本作は、孤独な夜を過ごす物語から、次第に暖かな夜の物語に変わっていく。折り返し地点にある本作は、子供の誕生を期待する夫婦のこれからに希望がさすようなストーリーだった。

女性がひと目ひと目、糸を編んでいくように、この家族の幸せが積もっていけばいいなと思った。

第七話 夜の王

眠れない夜は、おれのもの。

p.72

主人公の犬、コロが家を抜け出し、夜の街を散策する物語。リードをつけず、自由に街を歩くコロの姿が描かれている。

電灯が設置されてから、街は一日中明るく照らされ、夜は人々の支配下に置かれるようになった。光が強くなることで、暗闇への恐怖と同時に、憧れの感情がより一層強くなったように感じる。

夜のアンダーグラウンドな魅力が漂い、人ならざる存在が跋扈する、そんなミステリアスな雰囲気が残っているところがとても好きだ。

物語の中で、コロは「少女の騎士」として自宅へ帰っていく。この幻想的なひとときを通して、我が家の犬にもこんな自由な時間があるのではないかと想像すると、なんだかワクワクしてくる。

第八話 繍しい夜

眠れない夜は、すぐそばに×××がきているのだろう。

p.82

旧時代的な部族で暮らしている少女が、旅人に啓蒙され、広い世界を知る物語。

目の前にあるものを刺繍でキロクする少女は、旅人と出会うことで、徐々に世界が広がっていく。地続きのどこかでは戦争や事故があり、人々が理不尽に傷ついている人がいることを知り、衝撃を受ける。

彼女の世界は自然そのもので、村にある植物や人間が世界の「全て」だった。文明の機器もほとんど知らず、無知であるからこそ、繍しい(うつくしい)刺繍を刺し続けられたのである。

夜にあるのは、見えない恐ろしさではなく見ようとしてしまう恐ろしさ。

p.96

もしそこに暗闇があると知らなければ、覗き込もうとすることもなかったはず。

彼女はこれから、毎夜怯えて過ごすのだろうか。痛くもないのに、痛みを感じて震えるのだろうか。知らなければ無関心でいられる。しかし、知ったことで彼女の心の中に変化が訪れ、もう目を背けることはできない。

第九話 寝息

眠れない夜は、君の呼吸に耳をすます。

p.98

これは、妻が寝たきりになってしまった夫の日記。

万を超える日々を共に過ごした老夫婦の温かな夜の記憶が綴られている。妻が寝たきりになる前から、彼女の寝顔を静かに見つめていた夫。その姿からは、妻を大切に思う深い愛情が伝わってくる。

新婚の夜から、年を重ねていく中で育まれた純愛の物語だ。夫の回想を通して、温かくも切ない思いが胸に響く。

「この作品が一番お気に入りだ」という声がたくさん聞かれるのも納得できる一作だ。

第十話 仕舞いの儀式

眠れない夜は、どうやって過ごしていただろう

p.108

転勤を機に引越しをする女性が主人公。忙しさを理由に捨てられなかった元彼の遺物や、古くなったものを整理し、新しい一歩を踏み出していく。

物語の最後にふさわしく、彼女は一夜のうちに人生を振り返り、未来を想像する。これまで振り返ることのなかった街を見渡すと、住んでいた場所なのに見えていなかったことが、たくさんあることに気づく。

朝陽を見つめる彼女の心に、明日が希望に満ちたものであることを願わずにはいられない。

眠れない孤独な夜にも、必ず夜明けは訪れると感じさせてくれる作品だった。夜に光が射すように、彼女の未来にも希望が差し込んでいると信じたくなる。

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