今回はドリアン助川氏の『太陽を掘り起こせ』をご紹介します。
この本を手に取った理由は、書影のイラストに強く心惹かれたからです。真っ黒な背景の中に、左からカピバラ、子ども、そして背景に同化した黒豹が横並びで描かれています。
そしてタイトルが『太陽を掘』改行し、『り起こせ』。
なんでここで改行したんだろう……。
『太陽を掘り起こせ』のあらすじ
ある日、世界から太陽が消えた。芳枝は一人息子の健太郎を失い、暗い家に閉じこもっていた。だが、その扉を叩く見知らぬ男の子があらわれる。その子は太陽を探しに行くのだという――。「あなたは、だれなの?」闇の中で子どもが大人を導いていく。物語の本源に迫る重層的な語りの構造が、闇の底に驚くべき結末を準備する。代表作『あん』が23言語で翻訳され、世界のリテラシーエージェントが注目するドリアン助川の希望の書。
一般書(451)『太陽を掘り起こせ』ポプラ社より引用
著者について
ドリアン助川(1962-) 東京都出身の小説家。
著者の助川氏は歌手やラジオパーソナリティを経験後、現在は明治学院大学の国際学部で教授を務めています。
代表作の『あん』は14言語に翻訳され、映画化もされました。
『太陽を掘り起こせ』の感想・レビュー
POINT1:大人のための『不思議の国のアリス』
太陽が消えた真っ暗な世界では、昼と夜の境がなくなってしまいました。70代の芳枝は、自死した息子を失った悲しみによって憔悴し、家に引きこもる日々を送っています。
心から太陽が消えてしまったんだね
そんな中、1人の少年が芳枝のもとを訪れます。彼女はその子どもに、幼い頃の息子の面影を重ねてしまいます。少年は「太陽を探しに行こう」と誘い、芳枝はその導きに従って旅に出る決意をします。
白兎に導かれるアリスのごとく、芳枝の冒険が始まります
POINT2:現実世界の写し鏡
太陽を探しに行く物語は、芳枝と高校時代の友人・豹さんの創作の中で繰り広げられます。二人はメールのやり取りをしながら、この作品を共に作り上げていく過程が描かれています。本書は章ごとに現実と童話の世界を行き来する構成になっており、物語の深みを増しています。
また、第二次世界大戦やパレスチナの虐殺、ウクライナの戦争、そしてコロナウイルスといった時事問題も登場し、物語にリアリティと緊張感を与えています。このようなテーマを通じて、芳枝の旅は単なる冒険にとどまらず、より広い社会的背景を反映した深い意味を持つものとなっています。
今を生きる私たち一人一人が問い続けなければならないテーマが哲学書のように取り上げられています
POINT3:暗闇の中で最後に残るのは…?
芳枝のこれまでの人生を辿るように、童話の中の物語は展開していきます。現実の芳枝は、かつての友人を思い出し、失った人々を尊びながら人生を振り返る時間を持ちます。
この内面的な旅が、物語の冒険と呼応しながら進んでいくのです。
彼女の過去の経験や感情が、少年との冒険や出会うキャラクターに影響を与え、それぞれの出来事が彼女の心の成長を促していきます。
物語は、現実とフィクションが交錯する中で、芳枝がどのように再生していくのかを描き出します。
かつて失ったかけがえのない人々と繋がっている温かさ
冒険は子どもたちによって導かれていきます。彼らの正体とは一体何なのでしょうか?
残酷で不平等な暗闇の中に残されるのは、果たして希望なのか、それとも絶望なのか。
太陽は見つかるのかな…?
書籍情報
書籍名 | 太陽を掘り起こせ |
著者 | ドリアン助川 |
出版社 | ポプラ社 |
ページ数 | 206ページ |
発売日 | 2024/3/13 |
『太陽を掘り起こせ』の感想・まとめ
今回はドリアン助川氏の『太陽を掘り起こせ』をご紹介しました。
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を思わせる大人のための冒険小説です。
じんわりと暖かく、何度でも読み返したくなる一冊でした。
人生を振り返った芳枝は太陽を見付けられるのでしょうか。
ぜひ本書を読んで、太陽を探す旅に出かけましょう。
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